脆性破壊は一旦発生すると,1,000m/sを超える高速で伝播することがあり,構造物の大規模な破壊に発展する可能性が高いので,特段の注意が必要である.重要な構造物や構造部材では,脆性破壊の発生を防止するとともに,万が一,脆性破壊が発生してもき裂の長距離伝播を抑制する(クラックアレスト)ことにより安全性を二重に確保する設計が行われる.このためには,高速で伝播する脆性き裂に対する破壊力学的評価とその材料へのフィードバックが必要である.
脆性き裂を停止させる鋼材の能力(アレスト靭性)を評価するために,国内では温度勾配型ESSO試験が広く用いられている(Fig.1).幅方向に温度分布を設けた試験片に所定の応力を負荷した状態で低温側から脆性き裂を発生させ,き裂を停止させる.停止き裂長さと負荷応力からアレスト靭性(Kca)を破壊力学の式に基づいて算定する.一方,構造物を模擬した幅が2m以上の超広幅試験片に所定の応力(通常は構造部材の設計応力)を負荷した状態で脆性き裂を1m以上伝播させた後,所定の温度(通常は最低使用温度)に保持した試験鋼板にき裂を突入させてき裂が伝播あるいは停止するかを判定する試験が行われる(超広幅混成試験).破壊力学の考えに従えば,温度勾配型試験で得られたKca(材料の抵抗値)に比べて超広幅混成試験のき裂駆動力(応力拡大係数で表わす)が小さければき裂は停止するが,実際の超広幅混成試験におけるき裂伝播/停止の境界に一致する駆動力はKcaよりもはるかに大きい.このことは古くから指摘され,「長大き裂問題」と呼ばれている(Fig.2).
当研究室では,これまでに,動的有限要素法により超広幅混成試験における高速伝播き裂の応力拡大係数の数値解析を実施するとともに(Fig.3),温度勾配型試験に対する同様な解析を行い(Fig.4),Kcaを正しく評価するために必要な試験片形状(この場合には試験片に取り付けるタブ板厚さの影響)を提案して,試験法規格に反映された.
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